メモ

●論文(中村享一)

・「地方の時代」の建築を問う

第1章 序


第2章 「地方」とは

第3章 「ポスト地方」と「世界」

第4章 手法について

散逸構造

第4章 手法について

我々人類は過去において大きな変革を経験してきました、前回は近代への変革でありました。現在はそれに勝るとも劣らない変革の時期であると考えられます。その変革期においてある理論(散逸構造理論)を利用し、手法を考察してみたいと思います。

イリア・プリゴジーヌというベルギーの化学者がいます。彼は化学・生物科学・社会科学の分野で適応できることを証明しノーベル賞を受賞しています。その論理を一部抜粋します。

「散逸構造」というのは、絶えず外界からエネルギー(非エントロピー=秩序)を取り入れ、このエネルギーを使用することによって「系」の秩序を保ち、その結果生じたエントロピー(無秩序)を系の外に放出(散逸)する構造(組織)です。このような例のひとつとして、我々の身体があります。身体は外界から食物(エネルギー=秩序=非エントロピー)を取り入れ、エネルギー代謝をすることによって秩序を形成しています。その結果、不要となった排泄物や体熱を通してエントロピー(無秩序)を体外に放出しています。この系こそ「散逸構造」にほかなりません。このような「散逸構造」は、物質、生命現象、さらに生命をもつ人間によって構成される企業組織や社会現象など、いろいろの分野にわたって見られます。これらの構造においては、外界からエネルギー(企業の場合は組織を構成する幾多の人間のエネルギー)を取り入れ、系の秩序を形成しながら、不要となったエントロピーを排出しています。

プリゴジーヌが「散逸構造理論」を発想するきっかけになったのは、次のような実験例によります。皿に特殊な科学液体を入れ、下から加熱します。時間が経つにつれ液体のゆらぎが大きくなっていきますが、加熱がある限界(分岐点)を超えると、突然「ベナール泡」と呼ばれる正六角形の細胞状のパターンが無数に発生します。この六角形の無数のパターンは、実に美しい秩序を形成します。

この実験で注目すべき点は、化学液体を加熱し、ある限度(分岐点)を超えると、突然、液体に無数の六角形のパターンからなる新しい秩序がつくられ、不要となったエネルギーが散逸していくということです。ということは、生命を持つと考えられていない科学物質でも、外からエネルギーを加え、その加熱が一定の分岐点を超えると、生命を持っているものと同じように、突然新しい秩序を作りあげるということです。人間の行動や、企業組織というような生命活動が働く「散逸構造」の場合には、危機に直面してエネルギーの取り入れ(危機突破のための努力)が行われ、それが一定の分岐点を超えると、過去に作られたパターンが動員されて危機切り抜けにふさわしい秩序が作り上げられるようになります。まさに、「散逸構造理論」で言われるとおりのことが起こるのであります。

それは、化学者ルパード・シェルドレイクの「形態形成場」と共通することの様に思えます。そこで現代の中においてのその取り入れるべき『エネルギー』は何かと考えてみると、『情報機械である』と考えることは適当と思えます。それは情報の多元化・複層化・スピード化を可能にしただけでなく、地域は地域の高いポテンシャルの部分を世界に対してビジネスをすることを可能にしますし、その情報を世界に通信することを可能にします。国際化への大きな障害となっていた言語の問題にしても、情報機械により解決してくるでしょう。それによって、新しい秩序が当然必要になってきます。それは、交通手段(トランスポーテーション)の問題とエネルギーの問題であろうと思います。

近代は我々に幾つかの功績と失敗を残しました。自然科学と言う『書物』と力を持った人間の『自然破壊』です。経済を自立させる為には交通及びエネルギーの為の建築、及び周辺環境を整備する必要が出てきます。スピードを落とし、又、可能な限り施設は再利用する必要が出てきます。又、新しいクリーンエネルギー源の技術開発は急がねばなりません。交通手段に関しても、省エネルギーで大量輸送が可能な海上の有効利用と「ポスト地方」の人々の移動が可能な空の整備は連動して行う必要があります。特に海上の利用は交通のみならず、エネルギー源としての複層の利用が可能です。

新しい「場」・新しい「ポスト地方」をつくる為に並べ直す必要のある秩序とふるい落とす秩序を見出す必要がありますが、それぞれの「地方」にある資産・資源の把握、他の「地方」との差異を世界レベルで分析する必要があります。我々、建築家も果たさなければならない役割が、今よりももっと大きくなると考えています。


参考文献
「松下幸之助の人の育て方」松本順著、株式会社講談社
「新漢和辞典」諸橋轍次著、渡辺末吾著、鎌田正著、米山寅太郎著、株式会社大修館

一宇一級建築士事務所
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