メモ

●2004.10.01

・設計におけるメモの役割

スケッチ スケッチ

建築家のメモ メモが語る100人の建築術
日本建築家協会 関東甲信越支部 建築交流部会 監修     
発行元:丸善(株)出版事業部
寄稿文


メモは突然に思いつき雑記帳や手帳に書く時もあるし、慎重に物事を考えて書くときもある。その中でも、最初に書き始めたものの方が勢いがあって私は好きだ。スケジュールに迫られ、時間一杯まで考えながら覚悟を決めて丁寧に書いたフリーハンドのメモは、記憶に強く残るなかなか捨てられない大切なメモである。

メモやスケッチは、考えたことが直ぐに表現できるので脳と手が一体になったようで楽しい。これに対してCADは今ひとつ楽しさに欠ける。なぜなら、考えたことがワンクッション置かれたように感じるからである。

建築のコンセプトなどをまとめる際に様々な本や資料に目を通すが、私の場合は地図が一番多い。特に古い地図や地質、植生の資料などである。Imidasのような情報事典の自然科学や哲学などのページも、面白いのでよくメモを取りながら目を通す。

コンセプトをまとめながら書く時のスケッチや言葉のメモは、言うなれば建築計画の「憲法」である。計画の過程に発生する理念や仕様、デザイン、ディテールに関する様々なことが、そのメモでジャッジできるからである。現場で時間に迫られて脳をふり絞るように書くスケッチは、「やはりここまでは仕上げたい」という願望が形になった瞬間のように思う。想いが現実に完成した時の喜びは例えようもない。

今回のメモは前述の「憲法」の一つであり、環境問題をテーマとした自邸の実験住宅のために最初に書いたコンセプトスケッチである。もう一つは、現場の時間に追われて書いたディテールスケッチである。長崎にあるカステラの老舗、福砂屋松が枝店のためのもので、H型鋼150ミリの中に可動ルーバーと構造柱を兼用したカーテンウォールと格子シャッターが複雑に絡みあったディテールである。

メモは、物作りの根源であるように思うし、自身の成長記録であると思う。ファイルに収まりきらないくらいたくさんのメモを残すような建築を作って行きたいと思う。

一宇一級建築士事務所
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